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2009、02、02
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謝ろう。透に。伊織に。

冷静になった今。
俺は自分に嫌気が差している。
俺のことを思いやってくれた透に対しての、あの所業。

幸村が指摘した透への態度の数々。
皆の言うとおりだ。俺は透に甘えていたのだ。
透は何も文句を言わないものだから、透自身の気持ちも是であると思い込んでいた。
俺はたるんでいた!

明日、朝一で謝ろう。
その方がいい。
いつまでもこのような間違った気持ちではいけない。



・・・しかし、現実はそう甘くはなかった。
このときの俺は、まさかマネージャー2人に謝ることができるまでが、こんなに大変になるとは思ってもいなかった。






立海テニス部の夫婦喧嘩 3







「・・・おはよう。透、伊織」
「あ、おはよう弦一郎」
「・・・・・・・おはよ」




うちの門の前。いつものように挨拶をすれば、透はいつもの表情であいさつを返してくれた。
あまりの普通通りの態度に、昨日の喧嘩が嘘のようだ。
ただ、伊織の方は相当不機嫌な表情をしている。

しかし、謝ると決意したからには謝らねば。
俺は軽く心を落ち着かせて、昨日のことを切り出す。

「透、伊織、昨日は・・・」「透、行こ!」
「え、伊織?」


伊織が透の腕をとって、俺の脇を通りすぎた。

「待て伊織!俺は話が」「あ、そう。こっちにはないです。朝練に遅れるからじゃあね」
「ちょ!伊織!!」

そう言って、俺を置き去りにしたまま、透の手をとってどんどん先に進んでいく。
慌ててそれを追いかける。
あくまで敵意剥き出しの伊織の態度。
その態度に少々カチンとくる。

「待たんか!俺はお前達に話がしたいのだ!」
「弦一郎のために待たないといけない義務なんて、私達にはないの。わかる?」
「な・・・」
「伊織、言いすぎだよ!」
「気遣わなくていいよ透!!それに、待って欲しいなら「待って下さい」でしょ!?」
「っ・・・・・・」
「全然反省してないじゃない!!今の弦一郎に命令する資格なんてないんだからね!!」


そう言ってずんずん進んでいく伊織。
透は気遣わしげに、駅に着くまでに、何回も後ろを振り返って俺を見た。


・・・全く伊織の言う通りだ。
今の俺には命令するような資格はないのだ。
頼み込んで話を聞いて貰うしか方法はないのだ。
よしんば、話が聞いて貰えたとしても、許して貰える保障などどこにもないのだ。
その事実と、事の重大さに改めて気づき、軽く眩暈がしそうだった。

俺は何を勘違いしているのだ。
思い上がりも甚だしい。
俺はまだ分かっていなかったと言うのか・・・。


気づけばすっかり駅に着いていた。電車がホームへ入る。
いつもは同じ車両。 しかし、今日は1人だ。
伊織が透の手をとって違う車両に乗ってしまったからだ。
追いかけるのも気が引けて、いつもの車両に乗り込む。
早朝の電車。人はあまり乗っておらず、いつもの電車が広く感じた。


「おはよう、真田」
「む・・・ジャッカルか。おはよう」

改札口を出たところで、ジャッカルが声をかけてきた。
透と伊織の姿はもう見えない。
俺を置いて先に行ってしまったのだろう。


「ちゃんと謝ったか真田」
「・・・・・・いや」
「え!?まだ謝ってないのかよ!・・・ひょっとしてまだ2人とも怒ってるのか?」
「透は怒ってはいない。・・・伊織が怒っているのだ」

俺の言葉にジャッカルが妙に納得した顔をした。

「なるほどな・・・。まあ秋原は笹本が大好きっていうのもあるからな。マネに対してのこともあるし、怒り2倍ってとこか」
「む・・・」
「朝練のときにでも、話せたら話してみたらどうだ?」
「いや、無理だろぃ。多分伊織に邪魔されるか、無視されると思うぜ」

丸井がいつものようにガムを膨らませながらやってきた。
片手で「よっ真田」と挨拶をされた。
3人で歩く学校までの道のり。珍しいメンバーだな。と思った。

「朝練なんてそもそも時間ねえんだしよ。ゆっくり話すなら昼休みの方がいいだろぃ」
「おお・・・いいこと言うなブン太。・・・目下最大の難関は秋原だな」
「ま、自業自得ってヤツだけどな。・・・2人同時だと言い難いだろうから、言い易そうな透から謝ったらどうだ?喧嘩相手の張本人なんだし」
「うむ、そうだな。・・・昼休みか。では昼休みに透の教室まで出向くことにしよう」
「それがいいだろぃ。中途半端に動くと、また伊織の怒り買いそうだしな」

・・・ということは、朝練の時間は顔を合わせながらも何も言えないというのか・・・?

そこはかとなく、気まずい雰囲気になること必須だろう。


予想した通り。
今日の朝練は、妙な空気だった。
部員の大半は昨日の行く末が気になっているのか、そわそわしている。
「たるんどる!」と一喝すれば部員はそそくさと逃げていった。

チクチクと伊織の刺々しい視線が刺さる。
そちらを向けば、伊織の横で透がこちらを苦笑いしながら見ていた。


(待っていろ透。まずは必ずお前に謝ってみせる・・・!!)


決意した瞳を透に向けると、お呼びではない。というような伊織の態度が目に入った。
・・・なんとかして、まずは透と一対一で話し合う場を設けなければならない。





待ちに待った昼休み。
こんなに昼休みが待ち遠しかったのは初めてだ。
早々に弁当をたいらげ、透のクラスに急行する。

「しつれいする」

気合を入れてCクラスに乗り込めば、そこには透と同じクラスの幸村がにこやかに微笑んでいた。

「・・・透に会いに来たのかい?でも残念だったね弦一郎。透は今いないよ」


何?いないだと?
確かに、クラスを見回しても透らしき人物は見当たらない。


「精市、透はどこに行ったのだ?」
「さあ。ついさっき伊織が来て、透を連れていっちゃったからね」

そう言って自身の弁当を租借する幸村。

「どこに行ったかは俺にもわからないな。きっとお昼休みいっぱいは帰ってこないよ」
「・・・そうか」
「先ずは透に謝ろうってことかい?」
「そういうことだ」

俺はいつになったら透と話をすることができるのだろう。
憤りを感じると共に、言い知れぬ妙な不安感が募ってきた。

「自業自得だよ弦一郎」
「ぐ・・・・・・」
「いつものように電話で呼びつけたらいいじゃないか」
「・・・それはできん!俺は今、透にそのような態度をとる資格はないのだ・・・」
「・・・へえ、ちゃんと反省してるね」
「当たり前だ。俺は・・・透に迷惑をかけてばかりだったことに気づいた・・・」
「如何に自分が透に甘えてたかってこと、わかった?」
「ああ・・・」
「伊織が怒ってる理由も?」
「無論だ。・・・伊織に対しても随分なことを言ってしまった・・・」
「・・・・・・じゃあ反省している弦一郎に、いいこと教えてあげるよ」
「いいこと?」
「・・・これ、何かわかる?」

幸村は制服のポケットから携帯電話を取り出した。
幾度と見たことのある形。
しかしそれは幸村の物ではなく、透のものだ。見知ったストラップがついている。


「・・・何故、お前が透の携帯を持っているのだ?」
「伊織に言われてね。弦一郎が透に電話をかけたら俺が出るようにって。・・・透を呼びつけるようだったら、俺から叱ってやってくれって。フフ・・・用意周到だよね」
「・・・・・・」
「だから、弦一郎が電話しても無駄だったってことだよ。まあ、弦一郎から伊織に電話しても、電源切られちゃうだろうけどね」
「・・・それがいいこと。か?」
「ううん。それだけじゃないさ」

そう言って、幸村は自身の携帯電話を取り出した。

「俺から伊織に電話かけてあげるよ」
「っそれは本当か?」
「ちゃんと反省してるようだからね。・・・このお礼は高くつくよ弦一郎」
「ああ・・・すまん」


幸村が慣れた手つきで電話をかける。
透の居場所を教えて貰うことができるだろうか。

「ああ、うん俺だけど。・・・弦一郎?ここにいるよ。うん。ちゃんと反省してるみたい。・・・・・・弦一郎、伊織が代わってくれって」
「俺に?」

幸村から携帯を受け取り、耳に当てる。
すると予想通りの怒ったような伊織の声が聞こえた。

『・・・本当に反省してるんでしょうね?』
「ああ・・・無論だ」
『言っておくけど、電話が通じたからって場所を教えるとは限らないんだからね?』
「それもわかっている。・・・伊織、よかったら居場所を教えて貰えないだろうか・・・」
『・・・・・・・・・』
「俺は、きちんと・・・お前らに謝りたいのだ・・・」
『・・・・・・・・・』
「後生だ・・・」
『・・・・・・マネージャーの部室にいるかもしれないけど。・・・嘘かもしれないよ?』
「それでもいい。これからそちらへ行く」
『言っておくけど!私はまだ許したわけじゃないからね!』

プツッ ツーツーツー・・・


そう言って伊織との電話は切れた。

「・・・教えて貰えた?」
「ああ。嘘かもしれんがな。しかし行くしかあるまい」
「フフ・・・。まあ頑張ることだね弦一郎」
「ああ。精市、恩に着る」

俺はそう行ってCクラスを後にした。
マネージャーの部室まで走っていきたいところだが、なまじ風紀委員長であるため、無闇に廊下は走れない。
俺が風紀委員であるということも考えているのだろうか。
なるべく早足で、屋外へと向かう。走りたいのに走れない、このもどかしさがどうしようもなかった。
 


【続】


いろいろ微調整(^ω^)
藤がちゃんと弦一郎のマネに対する暴言への指摘があったおかげで、何か素晴らしいものになりそうだよ!!
ムッフフ~^^ ありがとう!!!

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