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2009、02、02
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この気持ちをどうすればいいかわからない…





番外:近すぎて、遠すぎて





6月のこの時期は雨が降ってばかりで気が滅入る。
俺は幼馴染みと共に学校から家までの道のりを歩いていた。


いつもは伊織を含めた3人で一緒に帰るのだが、珍しく今日は伊織がいない。
何でも、久々に会う両親と3人、親子水入らずで食事をするらしい。
制服姿のまま、部活が終わると早々に消えていった。



透と2人だけで帰るのは何ヶ月ぶりだろうか。
昔は毎日のように2人で帰ったものだが・・・。

隣りには透の赤い傘。
ほの暗い雨の中、目の醒めるような赤は、ことさらに際立って見えた。

綺麗な赤でしょ?
と言った中学1年の頃の透を覚えている。

『雨だからこそ明るい色を』というのは透の持論だ。





「こう雨が降ってばかりだと、テニス出来ないね」

沈黙を破るように、そう透が口を開く。


何ともなしに、そうだな。と返す。
また雨の音しか聞こえなくなる。

また無言が続く。
しかし俺も透も気にしない。
俺は元々口数は少ない方だし、透もそれをわかっている。

会話はあまりしない。
というより透が質問をして、俺が答える感じだ。
だから全く会話がないわけではないが、こんな風に沈黙が続くことはしょっちゅうだ。
だが、そんな気兼ねしない関係が俺には心地よかった。
そんな関係が好きだった。


雨蛙が鳴いている。
もう本格的に夏の季節だ。

夏はテニスが思いっきりできる。それに大会も近い。
夏になったら久しぶりに透と伊織と試合をしないか。と幸村と話をしていた。
透も伊織も不平を漏らしていたが、きっとそれまでには2人とも万全の体調を整えるだろう。
今から楽しみだ。
もう、随分と試合をする透を見ていないような気さえする。




雨は、一向に止む気配はない。
ちらり。と透を見る。

赤い傘のせいで、いつもよりも透の肌が白く見える。
同じ様に日々過ごしているというのに、俺よりもはるかに白い肌。



どき。



胸が一寸高鳴った。


(…何故緊張せねばならんのだ…くだらん)


邪念を打ち砕くように頭を振る。
いつもと変わらない帰り道――――。

――― 何故か鼓動が速くなる。




「…弦一郎、なんか難しい顔してる」
「っ!」

気付けば目の前には透の顔。


(す、少し近すぎではないか…?)



俺の顔を下から覗き込んでいる。
いつの間にこんなに身長に差が出てしまったのだろう。
内心気が気でない俺を余所に、透は俺の額に手を伸ばす。


「なっ何を・・・」
「何って・・・、顔赤いから」



心配。と、そう柔らかく微笑む。
透の手が触れた箇所から熱を帯びていく感じがした。
顔が熱い。



「・・・お前と違って体調管理くらいきちんとしている。心配無い」
「私と違って・・・って、失礼な。・・・まあそれもそうか」


思わず素っ気無い態度をとる。俺らしくもない。
しかし、大して気にした様子も無く、納得したように透は額から手を離す。
手を離さないで欲しいと、そう思ったのはきっと気のせいだ。


「弦一郎?」
「・・・・・・ああ」


透が数歩先にいる。心まで遠いところにいるような錯覚。
幼い時分は感じなかったこの感覚。
歩きなれた道。一緒の時間。
心だけが、どんどん遠くなる・・・。


(・・・何を考えているのだ・・・俺は・・・)




透の俺に対する態度は、5歳のときから変わらない。
それは嬉しくもあり、その反面僅かばかりの虚しささえ感じてしまう俺は、一体透に何を期待しているのか。



「ふらふらするな透。また転ぶぞ」
「む!転びませんよ。昔じゃあるまいし」


傘をクルクル回して不満げな声をあげる。
この間、溝に足をとられて伊織に笑われていたのはどこの誰だ、まったく。
運動神経はよいはずなのだが。
相変わらず危なっかしい。
やはり俺がついていないと駄目だと思ってしまう。



そう思った瞬間。
道路の角から車が急に飛び出て来た。



「透っ!」
「っ!!」



咄嗟に腕を引っ張る。

軽い。




「・・・・・・馬鹿者!これだからお前は目が離せないのだ!!」
「ご、ごめん弦一郎・・・」


あちらも暴走運転に近かったとはいえ、こちらも前方不注意だ。
視野を広くすれば事前に対処できたものを。


「あのままお前が進んでいれば轢かれてしまうところだぞ!」
「うっ・・・」
「俺がいたからいいものを・・・・・・まったく・・・たるんどる!」



俺は昔と同じ感覚で、透の手をとって歩き出す。
透は無言でついてくる。
繋がった手が、熱を持っている気がする。
繋いでいるといっても、透の手首を俺が握っている形だから、厳密には繋いでいるとは言い難いが。




しばらく無言だった。
耳につくのは雨の音ばかり。







「・・・・・・弦一郎、痛い・・・」


ふいに透が言った。
気づけば随分な力で握っていたらしい。
反射的に手を離すと、透の手首は薄っすらと赤くなっていた。



「・・・すまん」
「ううん・・・」


フルフルと透が首を横に振る。
手首を見やると、当たり前だが俺の手の形通りにくっきりと痕になっている。


(・・・・・・っ)


俺がつけた痕。なんて言うと、何だか申し訳ないような、恥ずかしいような、なんともいえない気持ちになる。
それにしても、手首とはこんなに細いものだったろうか。
力を込めたら折れてしまいそうな・・・。
透は反対の手で手首を擦っている。


「・・・痛むか?」
「ん・・・少し」
「そうか・・・」




また、沈黙。
俺も透も、しばらく立ち止まったまま手首を見続けていた。
相変わらず雨は降り続いている。






「・・・弦一郎と一緒だと・・・つい、気が緩んじゃうの」


透がポツリとそう言った。


・・・それは俺といると安心するということでいいのだろうか。
それとも、男として見られていないのだろうか。
思わずまじまじと透の顔を見てしまう。


「・・・だからと言って、前方不注意の言い訳にはできんな」
「うん・・・」
「まったく・・・注意散漫なのは相変わらず変わらないな」
「・・・ありがとう、弦一郎」
「いつものことだ・・・帰るぞ」
「うん」


右手を差し出せば、迷うことなく掌に乗せられる左手。
ありがとう、と言ったときの柔らかい微笑み。
俺よりも一回り小さい手から伝わる温度。
それらが俺の心を満たしていく。



透が好きではない。と、そう言ってしまえば嘘になる。
自分でも恋愛として「好き」かどうか、というのはこの時の俺はわからなくて。

気づいたときには、もうお前は手の届かない所にいた。
どんなことをしても手に入れたいという欲求が、俺にもあるのだと知った。
しかし、その話はもっと先の未来の話。




【終】
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