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俺はあいつが泣いているところを見たことがなかった。
初めて会ったときから、あいつはいつも笑っている。
あいつは泣かない奴なんだって、何故か勝手にそう思いこんでいたんだ。
こぼれる夏休み
「っく・・・っ・・」
しゃくりあげるような声が聞こえた。
小学5年生の夏休み。
俺と透はやっぱり相変わらず毎日テニスと剣道ばかりしていた。
連日そのような日が続き、さすがに疲れの溜まった日曜日。
午前は剣道の稽古。午後は夏休みの宿題をする時間。というのがもう決まった日程になっていた。
お決まりのように、俺の家で透と一緒に宿題をする。
透は昔から成績優秀だ。
だからといって、俺より勉強している節もない。
でも不思議なことに俺より勉強ができるのだ。
それが少しだけ悔しかったりする。
俺に教えるときは先生みたいな丁寧な口ぶりで、それこそ担当の教員よりも分かりやすく教えてくれるときさえある。
ふあ・・・
(・・・眠いな)
道場で思い切り体を動かした後の勉強。
まだ十分な体力がないことも相まって、俺の眠気はそろそろピークに達していた。
「弦一郎・・・お昼寝しない?私も眠い・・・」
俺の欠伸につられたのか、透も鉛筆を持ったまま欠伸をした。
やはり、透も俺と同じように眠気が来ているんだろう。
後半の字がとりとめもないものになっていた。
「そうだな・・・。一眠りしてから続きをやることにするか・・・」
その言葉にコクンと頷いて、いそいそと押入れからタオルケットを取り出す透。
透は長年一緒にいるため、俺の家なのにも関わらず、大体は何処に何があるのかを把握している。
タオルケットを受け取って、座布団を枕にする。
隣には透。すでに瞼がとろんとしているのが確認できた。
「・・・おやすみ・・・弦一郎・・・」
「おやすみ・・・」
透の寝息も俺の寝息も、すぐに呻る扇風機の中に消えていった。
「っく・・・っ・・」
どのくらい寝ただろうか。
しゃくりあげるような声が聞こえた。
(誰かが・・・泣いている・・・)
意識が浮上していくにつれて、次第にはっきりと聞こえてくる。
目をうっすらと開けてみると、声は俺のすぐ隣から聞こえていることに気づいた。
誰が泣いているか、何て普通すぐに気づくはずなのに。
俺はしばらく透が泣いていることに気づかなかった。
タオルケットを頭にすっぽり被って、体をふるふると震わせながら、声を押し殺すように泣いている。
その姿に、溜まらず声をかけた。
「透・・・」
「っ!」
瞬間、ビクッと跳ねた透はゆっくりとこちらを向いた。
頬を濡らす幾重もの涙の痕。
あまりの見慣れない光景に、思わずまじまじと透の顔を見てしまう。
「っご、めん・・・起こしちゃった・・・?」
「いや・・・」
しゃくりあげながら、タオルケットで涙を拭う透。
それでもポロポロと涙がこぼれる。
「具合でも悪いのか?」
近寄って透の顔を覗き込む。
濡れた瞳には俺が映り込んでいた。
ふるふると首を横に振る透。こういうときはどうしていいかまったく分からない。
俺まで不安な気持ちになる。
「ごめん・・・弦一郎・・・、そんな顔しないでも大丈夫だから・・・」
「・・・・・・・・・」
俺の顔を見て、笑うような顔をつくる透。
何が大丈夫だ馬鹿者。
そんな顔で大丈夫と言われても、説得力なんてまったくないぞ。
しかし、かける言葉が見つからず「恐い夢でも見たのか?」なんて、陳腐な台詞を吐いてしまう。
自分が何だか滑稽だ。
その言葉に、またゆっくり首を横に振る。
また涙がこぼれた。
「いっそ・・・夢だったら・・・よかったのにね・・・」
「?」
「私・・・この世界にいていいのかな・・・」
「・・・・・・何を・・・言っているのだ?」
訳が、わからなかった。
透が泣いていることも、その言葉の意味も。
彼女は望まれてこの世界に生まれてきたはずなのだ。
「不安で・・・不安で堪らないの・・・弦一郎・・・」
タオルケットをぎゅっと握り締めて、透はまた静かに涙を流した。
「・・・少なくとも、俺はお前に会えて嬉しい、と思っているぞ・・・」
「・・・本当に?」
「俺が嘘を吐く男だと思っているのか?」
そう問えば、またふるふると首を横に降った。
「お前は、父や母に望まれて生まれてきたんだろう?それに俺も精市も、俺の家族だって、みんなお前のことが好きだ。お前は恵まれているし、幸せなはずだろう?」
何をそんなに不安がるんだ。
何でそんなに泣くんだ。
いつもは笑ってばかりなのに。
知らないだけで、お前はいつも一人で泣いていたのか?
「うん・・・幸せ・・・幸せなの。幸せすぎて・・・切ないの・・・。最後の挨拶もできなかった・・・。私・・・私達って・・・親不孝なのかな・・・?」
アメリカでの生活のことを言っているのだろうか。
それに「私達」とは一体誰のことを指しているのだろう。
言っていることがまったくわからず、俺は困惑するしかない。
「お前の言っていることは・・・俺にはよく理解できないが・・・。お前が幸せなら、親も幸せであるはずだ」
「っ・・・弦一郎・・・」
「他には何が不安なんだ。全部俺が聞いてやる。だから泣くな馬鹿者」
「・・・・・・」
言った後にハッと気づく。
(・・・・・・何で俺はこうなんだろう・・・)
慰めるつもりが逆に説教をしているような口ぶりの自分が情けない。
どうも俺はこういうのは似合わない。
透に涙も。
お前は笑っている顔が1番似合う。
無言で俺を見つめていた透がおずおずと言葉を紡ぐ。
消え入りそうな、小さな声。
その震える声に、胸が締め付けられる。
「・・・・・・消えてしまうのが恐い・・・。全部目の前から消えてしまうのが恐いの・・・。私達は、運が良かっただけ・・・でも、いつか独りになるんじゃないかって・・・」
そう言ってまた、透の顔が歪む。
泣くな。泣くな。泣くな。
そんな顔するな。
そんな顔は見たくない。
「・・・俺がいる」
「ぇ・・・?」
震える透の手を握る。
少しでも寂しくないように。
泣かないように。
「独りになるのが恐いなら、俺がずっと一緒にいてやる。だから独りで泣くな!」
本当にそう思った。
握った手を更にギュッと握る。
独りではないと、そう思えるように。
「何なら指きりしてもいい」
透の小指と自分の小指を絡ませる。
その行為に、また透の涙が一筋落ちた。
「・・・・・・・・ありがとう・・・弦一郎・・・」
指を絡めたまま、透は静かに静かに微笑んだ。
お前に泣き顔は似合わない。
ずっとずっと笑っていてくれ。
お前が泣きたいときには、寂しくないように側にいてやる。
だから独りで泣いてくれるな。
だから独りで抱え込むな。ずっと、側にいてやる。
ずっと、ずっと ずっと。
ずっと一緒にいてやるから。
だから、この右手の小指はお前だけに預けておく。
【終】
・・・・・・
甘~いいいいいい!!!!!!\(^0^)/
これで弦一郎さん、惚れてないなんて言ったら嘘ですね!!!(笑)
これ、ほとんどプロポーズやんなあ。ニヨニヨ
純粋な弦一郎の言葉はキュンキュンしますね。
でも弦一郎は自分が告白したとか、恥ずかしいこと言ったとかそういう認識はなくて、
もうちょっと大きくなってから、思い出して、独りで感傷に浸るといい(笑)
弦一郎可愛いよ弦一郎^^
初めて会ったときから、あいつはいつも笑っている。
あいつは泣かない奴なんだって、何故か勝手にそう思いこんでいたんだ。
こぼれる夏休み
「っく・・・っ・・」
しゃくりあげるような声が聞こえた。
小学5年生の夏休み。
俺と透はやっぱり相変わらず毎日テニスと剣道ばかりしていた。
連日そのような日が続き、さすがに疲れの溜まった日曜日。
午前は剣道の稽古。午後は夏休みの宿題をする時間。というのがもう決まった日程になっていた。
お決まりのように、俺の家で透と一緒に宿題をする。
透は昔から成績優秀だ。
だからといって、俺より勉強している節もない。
でも不思議なことに俺より勉強ができるのだ。
それが少しだけ悔しかったりする。
俺に教えるときは先生みたいな丁寧な口ぶりで、それこそ担当の教員よりも分かりやすく教えてくれるときさえある。
ふあ・・・
(・・・眠いな)
道場で思い切り体を動かした後の勉強。
まだ十分な体力がないことも相まって、俺の眠気はそろそろピークに達していた。
「弦一郎・・・お昼寝しない?私も眠い・・・」
俺の欠伸につられたのか、透も鉛筆を持ったまま欠伸をした。
やはり、透も俺と同じように眠気が来ているんだろう。
後半の字がとりとめもないものになっていた。
「そうだな・・・。一眠りしてから続きをやることにするか・・・」
その言葉にコクンと頷いて、いそいそと押入れからタオルケットを取り出す透。
透は長年一緒にいるため、俺の家なのにも関わらず、大体は何処に何があるのかを把握している。
タオルケットを受け取って、座布団を枕にする。
隣には透。すでに瞼がとろんとしているのが確認できた。
「・・・おやすみ・・・弦一郎・・・」
「おやすみ・・・」
透の寝息も俺の寝息も、すぐに呻る扇風機の中に消えていった。
「っく・・・っ・・」
どのくらい寝ただろうか。
しゃくりあげるような声が聞こえた。
(誰かが・・・泣いている・・・)
意識が浮上していくにつれて、次第にはっきりと聞こえてくる。
目をうっすらと開けてみると、声は俺のすぐ隣から聞こえていることに気づいた。
誰が泣いているか、何て普通すぐに気づくはずなのに。
俺はしばらく透が泣いていることに気づかなかった。
タオルケットを頭にすっぽり被って、体をふるふると震わせながら、声を押し殺すように泣いている。
その姿に、溜まらず声をかけた。
「透・・・」
「っ!」
瞬間、ビクッと跳ねた透はゆっくりとこちらを向いた。
頬を濡らす幾重もの涙の痕。
あまりの見慣れない光景に、思わずまじまじと透の顔を見てしまう。
「っご、めん・・・起こしちゃった・・・?」
「いや・・・」
しゃくりあげながら、タオルケットで涙を拭う透。
それでもポロポロと涙がこぼれる。
「具合でも悪いのか?」
近寄って透の顔を覗き込む。
濡れた瞳には俺が映り込んでいた。
ふるふると首を横に振る透。こういうときはどうしていいかまったく分からない。
俺まで不安な気持ちになる。
「ごめん・・・弦一郎・・・、そんな顔しないでも大丈夫だから・・・」
「・・・・・・・・・」
俺の顔を見て、笑うような顔をつくる透。
何が大丈夫だ馬鹿者。
そんな顔で大丈夫と言われても、説得力なんてまったくないぞ。
しかし、かける言葉が見つからず「恐い夢でも見たのか?」なんて、陳腐な台詞を吐いてしまう。
自分が何だか滑稽だ。
その言葉に、またゆっくり首を横に振る。
また涙がこぼれた。
「いっそ・・・夢だったら・・・よかったのにね・・・」
「?」
「私・・・この世界にいていいのかな・・・」
「・・・・・・何を・・・言っているのだ?」
訳が、わからなかった。
透が泣いていることも、その言葉の意味も。
彼女は望まれてこの世界に生まれてきたはずなのだ。
「不安で・・・不安で堪らないの・・・弦一郎・・・」
タオルケットをぎゅっと握り締めて、透はまた静かに涙を流した。
「・・・少なくとも、俺はお前に会えて嬉しい、と思っているぞ・・・」
「・・・本当に?」
「俺が嘘を吐く男だと思っているのか?」
そう問えば、またふるふると首を横に降った。
「お前は、父や母に望まれて生まれてきたんだろう?それに俺も精市も、俺の家族だって、みんなお前のことが好きだ。お前は恵まれているし、幸せなはずだろう?」
何をそんなに不安がるんだ。
何でそんなに泣くんだ。
いつもは笑ってばかりなのに。
知らないだけで、お前はいつも一人で泣いていたのか?
「うん・・・幸せ・・・幸せなの。幸せすぎて・・・切ないの・・・。最後の挨拶もできなかった・・・。私・・・私達って・・・親不孝なのかな・・・?」
アメリカでの生活のことを言っているのだろうか。
それに「私達」とは一体誰のことを指しているのだろう。
言っていることがまったくわからず、俺は困惑するしかない。
「お前の言っていることは・・・俺にはよく理解できないが・・・。お前が幸せなら、親も幸せであるはずだ」
「っ・・・弦一郎・・・」
「他には何が不安なんだ。全部俺が聞いてやる。だから泣くな馬鹿者」
「・・・・・・」
言った後にハッと気づく。
(・・・・・・何で俺はこうなんだろう・・・)
慰めるつもりが逆に説教をしているような口ぶりの自分が情けない。
どうも俺はこういうのは似合わない。
透に涙も。
お前は笑っている顔が1番似合う。
無言で俺を見つめていた透がおずおずと言葉を紡ぐ。
消え入りそうな、小さな声。
その震える声に、胸が締め付けられる。
「・・・・・・消えてしまうのが恐い・・・。全部目の前から消えてしまうのが恐いの・・・。私達は、運が良かっただけ・・・でも、いつか独りになるんじゃないかって・・・」
そう言ってまた、透の顔が歪む。
泣くな。泣くな。泣くな。
そんな顔するな。
そんな顔は見たくない。
「・・・俺がいる」
「ぇ・・・?」
震える透の手を握る。
少しでも寂しくないように。
泣かないように。
「独りになるのが恐いなら、俺がずっと一緒にいてやる。だから独りで泣くな!」
本当にそう思った。
握った手を更にギュッと握る。
独りではないと、そう思えるように。
「何なら指きりしてもいい」
透の小指と自分の小指を絡ませる。
その行為に、また透の涙が一筋落ちた。
「・・・・・・・・ありがとう・・・弦一郎・・・」
指を絡めたまま、透は静かに静かに微笑んだ。
お前に泣き顔は似合わない。
ずっとずっと笑っていてくれ。
お前が泣きたいときには、寂しくないように側にいてやる。
だから独りで泣いてくれるな。
だから独りで抱え込むな。ずっと、側にいてやる。
ずっと、ずっと ずっと。
ずっと一緒にいてやるから。
だから、この右手の小指はお前だけに預けておく。
【終】
・・・・・・
甘~いいいいいい!!!!!!\(^0^)/
これで弦一郎さん、惚れてないなんて言ったら嘘ですね!!!(笑)
これ、ほとんどプロポーズやんなあ。ニヨニヨ
純粋な弦一郎の言葉はキュンキュンしますね。
でも弦一郎は自分が告白したとか、恥ずかしいこと言ったとかそういう認識はなくて、
もうちょっと大きくなってから、思い出して、独りで感傷に浸るといい(笑)
弦一郎可愛いよ弦一郎^^
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