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2009、02、02
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昼休み終了、約10分前。
次の授業は苦手な英語。まったく憂鬱ったらありゃしねえよ。


昨日、真田副部長と喧嘩していた張本人の透先輩が、いつもと変わらない様子だったのに対して、今朝の伊織先輩の態度は明らかに不機嫌だった。
きっと昨日のことについてまだ怒っているに違いないと踏んだ俺は、弁当持参で3-Bに様子を見にいった。
機嫌が直ってたら先輩達と昼飯を食いながら、その後の話でも聞こうと思ったからだ。


(伊織先輩は・・・っと。あっれ、丸井先輩しかいねぇし)


透先輩のクラスにいるのか、と思ってこっそり覗いて見れば、幸村部長しかいない。


(なんだよ・・・せっかく一緒に食おうと思ったのによ・・・)


弁当持参ではあるものの、幸村部長となんて一緒に食えるはずない。
丸井先輩のいるBクラスまで戻るのも気がひけて、部長に声をかけられる前にこっそり自分のクラスまで退散した。

結局昼飯は一人空しく食うことになって、なんだか飯もちょぴり塩辛い気がした。

(伊織先輩達と一緒に食いたかったなあ・・・)


「ん?」


あの廊下を歩いてる2人組みは・・・








立海テニス部の夫婦喧嘩 5








「伊織先輩!!透先輩!!」
「あ、赤也」
「そうか、ここ2年生の階か」


教室の窓から手を振って2人を呼べば、俺に気づいた2人がこちらに来てくれた。
クラスが一瞬ざわつく。

(そうだよな・・・。校内でも可愛いって評判の2人が来てるんだもんな・・・)

伊織先輩は俺を見るなり抱きついて頭を撫で始めた。
ふふふ・・・羨ましいだろ!!伊織先輩は俺のだからな!!
クラスの男子なんかは、興味深げにこちらの様子を伺っている。

透先輩が、「伊織、公衆の面前だから・・・」と呆れた顔をしているのが見えた。
終了10分前になって、伊織先輩に会えるとは!!
さっきまでの憂鬱が嘘のように吹き飛んだ。


「先輩達どうしたんスか?この階に来るの珍しいッスね」

率直に思ったことを聞けば、伊織先輩がちょっとだけムスッとした表情で答えてくれた。
そんな顔も可愛いとか思ってしまう俺って重症。


「・・・あの仏頂面の馬鹿野朗から逃げてるの」
「は?」
「・・・弦一郎にそう簡単に謝らせてやらない。って言ってね。伊織ってば私を弦一郎から遠ざけようとしてるの」

透先輩がそう苦笑いしながら補足してくれた。
なるほど、伊織先輩は真田副部長から透先輩を守っているらしい。
・・・なんだか副部長も大変そうだな・・・。

副部長はきっとたまったもんじゃないだろう。
伊織先輩を敵に回したら、透先輩と話しすらできないどころか、近づくことすら容易ではないに違いない。

(先輩、透先輩のこと大好きッスもんね・・・)

その気持ちの10分の1でもいいから、俺のこと思ってて欲しいとかそんなことを考えてしまう俺が何だか女々しかった。


「伊織先輩、やっぱり怒ってるんスか?」
「あたりまえ!透に謝るまで、私は弦一郎のこと許さないんだから」


いや、話が矛盾してますよアンタ・・・。
伊織先輩が近づけさせないから、副部長は透先輩に謝れないんでしょうが。

しかし、この理不尽さもきっと真田副部長への罰のうちなんだろうな・・・と妙に納得してしまう。
この理不尽な鉄壁を掻い潜って謝らないことには、副部長は一生許して貰えそうにない。

(ご愁傷様ッス・・・副部長・・・)

あの人が悪いとはいえ、心の中で合掌しておいた。
当の本人である、透先輩は複雑そうな顔を浮かべながら笑っていた。
昨日の部長の話を思い出す。
この人は、人並み以上に苦労してきたはずだ。だって相手があの真田副部長なんだから。
面倒臭いことこの上ないのに。何故こんな風に笑ってられるんだろう。

「・・・透先輩は、怒ってないんスか?」
「うん?そうだね・・・怒っては、ないかな・・・。腹は立ってるけど」

どうやら、全く怒っていないというわけではないらしい。
この人は、この人で分かりにくい。

「でも、弦一郎はちゃんと謝ろうとしてくれてるし。反省もしてるみたいだし・・・今だって私達のこと探してるし」

だから待ってるの。そう言った。
ムカつくことは、ムカつくんだけどね。と苦笑いする。


「透先輩って・・・人が良すぎません?」
「赤也もそう思う?赤也からも言ってやって。・・・まあ、そんなところが透の可愛いところなんだけどさ」
「うーん・・・だってこういう性格なんだもん。しょうがないじゃない」

しょうがない。で全部片付けてしまえる透先輩の気の長さが半端ない。
そんな感じで、しょうがない10年を副部長と過ごしてきたんだろう。
俺だったら早々にキレるね。絶対キレるね。確実に最初の3日でキレるね。

真田副部長が透先輩に甘いように、透先輩も副部長に甘い。
だからといって、あの2人は付き合ってるわけじゃないし、何故だか恋愛って感じじゃない。
熟年夫婦という感じだ。見てるこっちがヤキモキする。
とっととくっついちまえばいいんだよ。あんなに似合ってるんだからさ。
そうすりゃ、もうちょっと真田副部長も丸くなるんじゃねえの?


「・・・透先輩って、真田副部長のこと大好きなんスね」

そう透先輩に言えば、少しは照れた反応が返ってくるかと思えば、

「うん、好きだよ。何だか憎めなくて・・・。大きい弟持ってるみたい」
「あんな堅物の弟いらない・・・」
「伊織さん、また身も蓋もないことを・・・」

「へえ・・・そうなんスか・・・(お、弟とか・・・)」

そんな裏表のない言葉が透先輩から返ってきた。
もういろんな意味で副部長にはご愁傷様としか言えない。




「・・・あ!」




突然伊織先輩が声をあげたかと思うと、透先輩を引っ張り、無理やりクラスに入り込んできた。
俺の隣に座り込み、なるべく腰を低くしてじっと息を潜める。

『透!もっと腰低く!』
「え?」
「い、伊織先輩?」
『しぃっ!静かに!!』


??

俺は廊下の窓から頭を出して、左右を見回す。

あ。

頭一つ分突き出た身長の男子生徒が遠くに見えた。
どこからどう見ても真田副部長だ。
透先輩と伊織先輩を探しているんだろう。
キョロキョロと辺りを見回している。どっちへ行こうか迷っているみたいだ。

ばち。

(あっ!やべっ!目が合った!!)


伊織先輩ごめん!!!!!

時既に遅し。
俺と目があった副部長は、ずんずんとこちらに向かって歩いてくる。

「赤也」
「真田副部長じゃないッスか!・・・どうしたんスかこんなとこまで」


窓越しに声をかけられる。
どうした。なんて分かりきってる。透先輩と伊織先輩を探しに来たのだ。
伊織先輩が透先輩の頭を押して、一層姿勢を低くする。

思ったより冷静な声が出せてよかった。
これでバレたら伊織先輩に罵倒されかねない。

「いや、透と伊織を探しているのだ。こちらに来ていると思ったんだが、見ていないか?」
「さあ・・・俺は見てないッスけど・・・」
「そうか。邪魔をした」

そう言って競歩並みのスピードであっという間に過ぎ去って行った。

(バ、バレなくてよかったー・・・)


『赤也・・・弦一郎行った?』
「・・・行ったッスよ。もう見えないッス」

伊織先輩が用心深く窓の外を覗き込んで確認して、ふぅ。と溜め息。
透先輩は、はぁ。と呆れたような溜め息を吐いた。

時計を見れば、もう結構な時間だ。
あと2、3分で予鈴が鳴ってしまう

「伊織、そろそろ予鈴だよ。・・・赤也、騒がせてごめんね」
「・・・そっか。赤也ありがとう!じゃあ、また部活で!」
「お、お疲れッス・・・」

そう言って、真田副部長がやって来た方向の道を伊織先輩は歩き始めた。
どうやら来た道を逆に行くらしい。あっちの方向は非常階段しかない。

ぬ、抜け目ないッスね先輩・・・。


俺は、2人が見えなくなるまで廊下を見続けた。
どうやら鬼ごっこもかくれんぼも、伊織先輩の勝ちのようだ。
真田副部長もいいとこいったんスけどね・・・。

このまま持久戦に持ち込まれるのだろうか。
いつになったらこの喧嘩は終止符を打つのだろう。
まあ、一応は終わったことだが。

(むしろ、伊織先輩と真田副部長の対決みたいになってるよな・・・)

今日の部活と、これから始まる英語の授業を思うと、また憂鬱になった。
予鈴が鳴るまで、あと1分。
部活が始まるまで、後2時間ちょっと。


(真田副部長が何とか謝れますように!!真田副部長が何とか謝れますように!!真田副部長が何とか謝れますように!!)

そうしないと、虫の居所が悪くなった真田に殴られる可能性が高くなる赤也は必死にそう願った。



【続】


うーん(´∀`)
もうちょっと?なの?
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