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次の授業は苦手な英語。まったく憂鬱ったらありゃしねえよ。
昨日、真田副部長と喧嘩していた張本人の透先輩が、いつもと変わらない様子だったのに対して、今朝の伊織先輩の態度は明らかに不機嫌だった。
きっと昨日のことについてまだ怒っているに違いないと踏んだ俺は、弁当持参で3-Bに様子を見にいった。
機嫌が直ってたら先輩達と昼飯を食いながら、その後の話でも聞こうと思ったからだ。
(伊織先輩は・・・っと。あっれ、丸井先輩しかいねぇし)
透先輩のクラスにいるのか、と思ってこっそり覗いて見れば、幸村部長しかいない。
(なんだよ・・・せっかく一緒に食おうと思ったのによ・・・)
弁当持参ではあるものの、幸村部長となんて一緒に食えるはずない。
丸井先輩のいるBクラスまで戻るのも気がひけて、部長に声をかけられる前にこっそり自分のクラスまで退散した。
結局昼飯は一人空しく食うことになって、なんだか飯もちょぴり塩辛い気がした。
(伊織先輩達と一緒に食いたかったなあ・・・)
「ん?」
あの廊下を歩いてる2人組みは・・・
立海テニス部の夫婦喧嘩 5
「伊織先輩!!透先輩!!」
「あ、赤也」
「そうか、ここ2年生の階か」
教室の窓から手を振って2人を呼べば、俺に気づいた2人がこちらに来てくれた。
クラスが一瞬ざわつく。
(そうだよな・・・。校内でも可愛いって評判の2人が来てるんだもんな・・・)
伊織先輩は俺を見るなり抱きついて頭を撫で始めた。
ふふふ・・・羨ましいだろ!!伊織先輩は俺のだからな!!
クラスの男子なんかは、興味深げにこちらの様子を伺っている。
透先輩が、「伊織、公衆の面前だから・・・」と呆れた顔をしているのが見えた。
終了10分前になって、伊織先輩に会えるとは!!
さっきまでの憂鬱が嘘のように吹き飛んだ。
「先輩達どうしたんスか?この階に来るの珍しいッスね」
率直に思ったことを聞けば、伊織先輩がちょっとだけムスッとした表情で答えてくれた。
そんな顔も可愛いとか思ってしまう俺って重症。
「・・・あの仏頂面の馬鹿野朗から逃げてるの」
「は?」
「・・・弦一郎にそう簡単に謝らせてやらない。って言ってね。伊織ってば私を弦一郎から遠ざけようとしてるの」
透先輩がそう苦笑いしながら補足してくれた。
なるほど、伊織先輩は真田副部長から透先輩を守っているらしい。
・・・なんだか副部長も大変そうだな・・・。
副部長はきっとたまったもんじゃないだろう。
伊織先輩を敵に回したら、透先輩と話しすらできないどころか、近づくことすら容易ではないに違いない。
(先輩、透先輩のこと大好きッスもんね・・・)
その気持ちの10分の1でもいいから、俺のこと思ってて欲しいとかそんなことを考えてしまう俺が何だか女々しかった。
「伊織先輩、やっぱり怒ってるんスか?」
「あたりまえ!透に謝るまで、私は弦一郎のこと許さないんだから」
いや、話が矛盾してますよアンタ・・・。
伊織先輩が近づけさせないから、副部長は透先輩に謝れないんでしょうが。
しかし、この理不尽さもきっと真田副部長への罰のうちなんだろうな・・・と妙に納得してしまう。
この理不尽な鉄壁を掻い潜って謝らないことには、副部長は一生許して貰えそうにない。
(ご愁傷様ッス・・・副部長・・・)
あの人が悪いとはいえ、心の中で合掌しておいた。
当の本人である、透先輩は複雑そうな顔を浮かべながら笑っていた。
昨日の部長の話を思い出す。
この人は、人並み以上に苦労してきたはずだ。だって相手があの真田副部長なんだから。
面倒臭いことこの上ないのに。何故こんな風に笑ってられるんだろう。
「・・・透先輩は、怒ってないんスか?」
「うん?そうだね・・・怒っては、ないかな・・・。腹は立ってるけど」
どうやら、全く怒っていないというわけではないらしい。
この人は、この人で分かりにくい。
「でも、弦一郎はちゃんと謝ろうとしてくれてるし。反省もしてるみたいだし・・・今だって私達のこと探してるし」
だから待ってるの。そう言った。
ムカつくことは、ムカつくんだけどね。と苦笑いする。
「透先輩って・・・人が良すぎません?」
「赤也もそう思う?赤也からも言ってやって。・・・まあ、そんなところが透の可愛いところなんだけどさ」
「うーん・・・だってこういう性格なんだもん。しょうがないじゃない」
しょうがない。で全部片付けてしまえる透先輩の気の長さが半端ない。
そんな感じで、しょうがない10年を副部長と過ごしてきたんだろう。
俺だったら早々にキレるね。絶対キレるね。確実に最初の3日でキレるね。
真田副部長が透先輩に甘いように、透先輩も副部長に甘い。
だからといって、あの2人は付き合ってるわけじゃないし、何故だか恋愛って感じじゃない。
熟年夫婦という感じだ。見てるこっちがヤキモキする。
とっととくっついちまえばいいんだよ。あんなに似合ってるんだからさ。
そうすりゃ、もうちょっと真田副部長も丸くなるんじゃねえの?
「・・・透先輩って、真田副部長のこと大好きなんスね」
そう透先輩に言えば、少しは照れた反応が返ってくるかと思えば、
「うん、好きだよ。何だか憎めなくて・・・。大きい弟持ってるみたい」
「あんな堅物の弟いらない・・・」
「伊織さん、また身も蓋もないことを・・・」
「へえ・・・そうなんスか・・・(お、弟とか・・・)」
そんな裏表のない言葉が透先輩から返ってきた。
もういろんな意味で副部長にはご愁傷様としか言えない。
「・・・あ!」
突然伊織先輩が声をあげたかと思うと、透先輩を引っ張り、無理やりクラスに入り込んできた。
俺の隣に座り込み、なるべく腰を低くしてじっと息を潜める。
『透!もっと腰低く!』
「え?」
「い、伊織先輩?」
『しぃっ!静かに!!』
??
俺は廊下の窓から頭を出して、左右を見回す。
あ。
頭一つ分突き出た身長の男子生徒が遠くに見えた。
どこからどう見ても真田副部長だ。
透先輩と伊織先輩を探しているんだろう。
キョロキョロと辺りを見回している。どっちへ行こうか迷っているみたいだ。
ばち。
(あっ!やべっ!目が合った!!)
伊織先輩ごめん!!!!!
時既に遅し。
俺と目があった副部長は、ずんずんとこちらに向かって歩いてくる。
「赤也」
「真田副部長じゃないッスか!・・・どうしたんスかこんなとこまで」
窓越しに声をかけられる。
どうした。なんて分かりきってる。透先輩と伊織先輩を探しに来たのだ。
伊織先輩が透先輩の頭を押して、一層姿勢を低くする。
思ったより冷静な声が出せてよかった。
これでバレたら伊織先輩に罵倒されかねない。
「いや、透と伊織を探しているのだ。こちらに来ていると思ったんだが、見ていないか?」
「さあ・・・俺は見てないッスけど・・・」
「そうか。邪魔をした」
そう言って競歩並みのスピードであっという間に過ぎ去って行った。
(バ、バレなくてよかったー・・・)
『赤也・・・弦一郎行った?』
「・・・行ったッスよ。もう見えないッス」
伊織先輩が用心深く窓の外を覗き込んで確認して、ふぅ。と溜め息。
透先輩は、はぁ。と呆れたような溜め息を吐いた。
時計を見れば、もう結構な時間だ。
あと2、3分で予鈴が鳴ってしまう
「伊織、そろそろ予鈴だよ。・・・赤也、騒がせてごめんね」
「・・・そっか。赤也ありがとう!じゃあ、また部活で!」
「お、お疲れッス・・・」
そう言って、真田副部長がやって来た方向の道を伊織先輩は歩き始めた。
どうやら来た道を逆に行くらしい。あっちの方向は非常階段しかない。
ぬ、抜け目ないッスね先輩・・・。
俺は、2人が見えなくなるまで廊下を見続けた。
どうやら鬼ごっこもかくれんぼも、伊織先輩の勝ちのようだ。
真田副部長もいいとこいったんスけどね・・・。
このまま持久戦に持ち込まれるのだろうか。
いつになったらこの喧嘩は終止符を打つのだろう。
まあ、一応は終わったことだが。
(むしろ、伊織先輩と真田副部長の対決みたいになってるよな・・・)
今日の部活と、これから始まる英語の授業を思うと、また憂鬱になった。
予鈴が鳴るまで、あと1分。
部活が始まるまで、後2時間ちょっと。
(真田副部長が何とか謝れますように!!真田副部長が何とか謝れますように!!真田副部長が何とか謝れますように!!)
そうしないと、虫の居所が悪くなった真田に殴られる可能性が高くなる赤也は必死にそう願った。
【続】
うーん(´∀`)
もうちょっと?なの?
教室から急いで来たが、随分と時間がかかったように思えた。
気持ちが先走っていたからだろう。
進みたいのに、進めない。
掻き毟るようなもどかしさは、理不尽なものへの怒りによく似ていた。
立海テニス部の夫婦喧嘩 4
「・・・いるのか?・・・・・入るぞ」
マネージャーの部室の前。
軽くノックをしてからドアノブを回す。
ガチッ ガチガチッ
「ぬ・・・・・・鍵がかかっている」
部室は鍵がかかっていた。人の気配もしない。
伊織は丁寧に、嘘かもしれない。と言った。
しかしそれを承知でここまで来たのは自分だ。伊織は悪くない。
もしかしたら、中にいて内側から鍵をかけたのかもしれないが、そこまで意地の悪いことはしないであろうと、すぐにドアノブから手を離した。
どこに行ったのだろうか。手がかりはまるでない。
しかし、こんなところで諦めている場合ではない。
場所がわからぬのならば、自分の足で探すまでだ。
駆け出そうとした瞬間、後ろから声をかけられた。
「予想より1分17秒程早かったな」
「っ!・・・蓮二」
振り向けば、立海の参謀が腕時計を確認しながら涼やかな顔で立っていた。
会計の仕事でもしていたんだろう。
テニス部の書類を持っている。
「いいところに・・・ここに透と伊織が来なかったか?」
「ああ来ていたぞ。もっとも、いたのはほんの少しで、10分と48秒程前にはどこかへ移動したがな」
幸村が電話をかけた時点で、場所を移動していたんだろう。
どっちにしろ、伊織は嘘は言っていなかったわけだ。
「ちなみに俺もどこへ行ったかは知らん」
「そうか・・・」
「だが、場所を特定してやることはできる」
そう言って、俺を見る蓮二。
俺の行動を全て予測している上で言っているのだろう。
話が早くて助かる。今は一分一秒が惜しい。
「頼む、教えてくれ蓮二」
「フ・・・。そんな顔するな。教えないわけにもいくまい」
「恩に着る・・・」
「かまわん。そこまで必死な弦一郎は初めて見たな」
「・・・あいつらは、今まで俺達に必死で尽くしてくれた。・・・俺はそれを仇で返すようなことをしたのだ。必死にもなる」
「そうだな・・・。確かに弦一郎がしたことは許されたことではないかもしれん。だがその今の気持ちが大事なはずだ。あいつらもきっと分かってくれる」
「蓮二・・・」
蓮二はそう言って、指折り場所を特定してくれた。
「弦一郎から逃げていることを考慮すると1号館および3号館の非常階段、屋上庭園、特別棟教室といったところか。今言った順に確率が高い」
「なるほど。わかった」
「本当ならもっとも高い確率なのは女子トイレなのだが、さすがに俺達はそこへは入れないからな」
「では非常階段から当たってみる。邪魔したな蓮二」
駆け出そうとした瞬間、蓮二に呼び止められた。
「ああ、待て弦一郎。お前が来たときのために。と、秋原と笹本から伝言を預かっている」
「伝言?」
「「理不尽に走り回る気持ちはどう?これで少しは透が受けた理不尽な気持ちがわかった?マネージャーであること以前に、幼馴染はもっと大切にしなさい」・・・だそうだ」
「・・・・・・」
「もっとも、秋原がやっていることは理不尽というよりは、嫌がらせに近いがな」
そう言って柳はフ・・・と笑いを浮かべる。
その顔につい苦笑いになる。俺は助けられてばかりだ。
「秋原には、嫌がらせをするだけの意地があるんだろうな」
「意地・・・?」
「親友としての意地だ。秋原は本当に笹本のためを思って行動している。笹本は弦一郎に甘いところがあるからな。お前が謝ればすぐにでも許すだろう。そんな笹本にも腹が立っているんだ。秋原は笹本を大事に思っているからな」
蓮二が続ける。
「そして逆も然り。笹本が怒っていたことは自分が理不尽なことを言われたからじゃない。弦一郎が自分の身体より義務を優先したことに腹が立ったんだろう」
「・・・・・・」
「それに、あいつらのマネージャーとしてのプライドだな」
「プライド・・・」
「ああ。彼女達は俺達のマネージャーであることに、誇りを持って仕事している。その仕事はすべてに置いて俺達部員のためだ。頼れることは、全部頼れ。そうしなければあいつらは無用の長物となる」
蓮二の言葉が耳に痛い。
俺はマネージャーというものの存在を、今まで理解していたと思っていた。
しかし、違った。
俺は、本当に取り返しのつかないことを言ってしまったのだ、と。
「思いやり方を穿き違えたな弦一郎。・・・償いは容易ではないぞ」
「・・・それでも、俺は謝らねばならん。例え2人が許さずともな」
「フ・・・お前らしいな。では最後に、笹本からの伝言だ」
「・・・あいつは、何と?」
柳は一寸、間をとって言葉を続ける。
「・・・・・・「待ってる」、と」
「・・・・・・」
「笹本らしいな」
その一言で、透が言いたいことは十分に伝わった。
何が何でも探さなければいけない。
時刻的に考えて、もうこのお昼休みの間では探しきれないだろう。
よしんば探せたとしても、ゆっくり謝ることはできない。
しかし探すことを諦めることはできないと思った。
いや、諦めたらいけないのだ。探さなければ、自分で自分を許せない。
「・・・世話をかけたな蓮二」
「礼には及ばん・・・ではな」
軽く頷き、蓮二を後にして走る。
まずは、1号館の非常階段だ。
この場所からそこまでの1番近い道を選択する。そこまでは1分とかからない。
普段は使わない非常階段。なるほど、俺はこのような場所には興味がない。
ゆえに俺を相手に逃走経路を図るには格好のルートであり、潜伏場所の1つであると言えよう。
「む?」
4階辺りの踊り場に人の影がチラリと見えた。
姿かたちは分からなかったが、もしかしたら透と伊織かもしれない。
下階から4階まで一気に上る。
「透、伊織?いるのか?」
「・・・今日は客人が多い日よの」
そこには、期待していた姿はなかったが、よく見知った人物が悠然とそこに座っていた。
銀の髪が風になびく。
「こんなところに真田が来るとは思わんかった」
「仁王か。・・・透と伊織を知らんか?」
「さあてのう。知っとると言えば知っとるし、知らんと言えば知らん」
スッと、仁王が横の扉を指す。
階段と内部を繋ぐ扉だ。
「そこの扉から出て行きおったよ。さっきまで一緒にいたんじゃがの。幸村から電話が来た後、2人ともすぐにいなくなってしもうた」
「また、逃げられたな・・・」
「なんじゃ。まるで鬼ごっこじゃの」
真田が鬼じゃたまらんがな。と軽口を叩かれた。
たしかに、これは鬼ごっこやかくれんぼのようだ。
(そういえば、あいつは逃げるのも隠れるのも下手だったな・・・)
そんなことを思い出した。
幼い頃にやったことを思い出した。
だから、伊織の方が逃げるのも隠れるのも上手いのだろう。
透だけであったなら、もっと早く捕まえていたはずである。
「くく・・・伊織は手ごわいじゃろ」
「ああ。全く・・・振り回されっぱなしだ。手に負えん」
「なーに。透もお前さんに振り回されっぱなしだったんじゃ。これくらい可愛いもんよ」
そう言って、仁王はくつくつと笑った。
「伊織は一筋縄じゃいかん女じゃき。まあそこが面白いんじゃがの」
見ていて飽きんよ。と心底楽しそうに笑いを浮かべる仁王。
しかしこっちは笑っていられるような状況ではない。
「まあ、そんな顔しなさんな。自業自得っちゅうもんじゃ」
「わかっている。今日だけで何回言われたと思っているんだ」
「くく・・・すまんすまん。・・・でも、の。実はお前さんにはちょっと感謝しとるんじゃよ」
感謝?
説教される筋合いはあるとは言え、今の俺には感謝される筋合いなどはない。
「どういう意味だ?」
「そんな顔せんと、まあ聞きんしゃい。俺も幸村に言われるまで、マネについて深く考えることなんてせんかったんじゃよ」
そのまま仁王は言葉を続ける。
「進んで雑用をやってくれとる奴等。くらいの認識だったんじゃ。・・・まあ、これは悪い言い方じゃがな。平たく言えば、ただのお人好しの物好きじゃと思っとった」
俺自体が面倒くさがりの生き物じゃき。と仁王は言った。
「だから、真田と透が喧嘩せんかったら、ずっとそう思っとるところだった。・・・ま、そういうことじゃ」
「お人好しなのは、合ってると思うがな」
「くく・・・お前さんも言うのう。・・・まあ、そうじゃな。それくらいじゃないと、俺たちを手助けするような気にはならんじゃろうしな」
透がお人好しなのは、俺が一番よく知っている。
自分のことを省みずに、他人を優先するタイプなのだ。
そんな透を、伊織は1番に優先する。・・・いいコンビだと思う。
「・・・だから俺たちは気兼ねなくプレイに集中できるというもの」
「おう。・・・いいマネージャーを2人も持っとる俺たちは、本当に幸せもんじゃな」
「全くだ」
俺は仁王の横にある扉のドアノブを回した。
この場所からは、3号館の非常階段がよく見えた。そこには2人の姿はない。
柳が特定してくれた箇所は、あと2つ。
「まだ探すのか真田。予鈴まであと10分もないぜよ?」
「ああ。知っている。それでも探さんことには俺は自分が許せん」
ガチャリとドアが閉まる間際に、「まあ、頑張りんしゃい」という仁王の声が聞こえた。
【続】
意外と長く続くなー・・・
何か自分でも、どうしたいのかよくわかんなくなってきたーwwww
だって、けっこう内容が難しいっていうか・・・あれだよね頭使う^^^^^
友情モノといえば友情モノなんだけど、どことなくシリアスだし・・・
つか真田目線だからかなー・・・文が固いよね(笑)
だんだん、伊織寄りの話になってきているような気がするwww
透中心の話の予定だったのにな。っていうか透視点がないから、あれなのか(笑)
透視点は最終章にすることにしようそうしようwwww
仁王書いてるの・・・楽しい^^
謝ろう。透に。伊織に。
冷静になった今。
俺は自分に嫌気が差している。
俺のことを思いやってくれた透に対しての、あの所業。
幸村が指摘した透への態度の数々。
皆の言うとおりだ。俺は透に甘えていたのだ。
透は何も文句を言わないものだから、透自身の気持ちも是であると思い込んでいた。
俺はたるんでいた!
明日、朝一で謝ろう。
その方がいい。
いつまでもこのような間違った気持ちではいけない。
・・・しかし、現実はそう甘くはなかった。
このときの俺は、まさかマネージャー2人に謝ることができるまでが、こんなに大変になるとは思ってもいなかった。
立海テニス部の夫婦喧嘩 3
「・・・おはよう。透、伊織」
「あ、おはよう弦一郎」
「・・・・・・・おはよ」
うちの門の前。いつものように挨拶をすれば、透はいつもの表情であいさつを返してくれた。
あまりの普通通りの態度に、昨日の喧嘩が嘘のようだ。
ただ、伊織の方は相当不機嫌な表情をしている。
しかし、謝ると決意したからには謝らねば。
俺は軽く心を落ち着かせて、昨日のことを切り出す。
「透、伊織、昨日は・・・」「透、行こ!」
「え、伊織?」
伊織が透の腕をとって、俺の脇を通りすぎた。
「待て伊織!俺は話が」「あ、そう。こっちにはないです。朝練に遅れるからじゃあね」
「ちょ!伊織!!」
そう言って、俺を置き去りにしたまま、透の手をとってどんどん先に進んでいく。
慌ててそれを追いかける。
あくまで敵意剥き出しの伊織の態度。
その態度に少々カチンとくる。
「待たんか!俺はお前達に話がしたいのだ!」
「弦一郎のために待たないといけない義務なんて、私達にはないの。わかる?」
「な・・・」
「伊織、言いすぎだよ!」
「気遣わなくていいよ透!!それに、待って欲しいなら「待って下さい」でしょ!?」
「っ・・・・・・」
「全然反省してないじゃない!!今の弦一郎に命令する資格なんてないんだからね!!」
そう言ってずんずん進んでいく伊織。
透は気遣わしげに、駅に着くまでに、何回も後ろを振り返って俺を見た。
・・・全く伊織の言う通りだ。
今の俺には命令するような資格はないのだ。
頼み込んで話を聞いて貰うしか方法はないのだ。
よしんば、話が聞いて貰えたとしても、許して貰える保障などどこにもないのだ。
その事実と、事の重大さに改めて気づき、軽く眩暈がしそうだった。
俺は何を勘違いしているのだ。
思い上がりも甚だしい。
俺はまだ分かっていなかったと言うのか・・・。
気づけばすっかり駅に着いていた。電車がホームへ入る。
いつもは同じ車両。 しかし、今日は1人だ。
伊織が透の手をとって違う車両に乗ってしまったからだ。
追いかけるのも気が引けて、いつもの車両に乗り込む。
早朝の電車。人はあまり乗っておらず、いつもの電車が広く感じた。
「おはよう、真田」
「む・・・ジャッカルか。おはよう」
改札口を出たところで、ジャッカルが声をかけてきた。
透と伊織の姿はもう見えない。
俺を置いて先に行ってしまったのだろう。
「ちゃんと謝ったか真田」
「・・・・・・いや」
「え!?まだ謝ってないのかよ!・・・ひょっとしてまだ2人とも怒ってるのか?」
「透は怒ってはいない。・・・伊織が怒っているのだ」
俺の言葉にジャッカルが妙に納得した顔をした。
「なるほどな・・・。まあ秋原は笹本が大好きっていうのもあるからな。マネに対してのこともあるし、怒り2倍ってとこか」
「む・・・」
「朝練のときにでも、話せたら話してみたらどうだ?」
「いや、無理だろぃ。多分伊織に邪魔されるか、無視されると思うぜ」
丸井がいつものようにガムを膨らませながらやってきた。
片手で「よっ真田」と挨拶をされた。
3人で歩く学校までの道のり。珍しいメンバーだな。と思った。
「朝練なんてそもそも時間ねえんだしよ。ゆっくり話すなら昼休みの方がいいだろぃ」
「おお・・・いいこと言うなブン太。・・・目下最大の難関は秋原だな」
「ま、自業自得ってヤツだけどな。・・・2人同時だと言い難いだろうから、言い易そうな透から謝ったらどうだ?喧嘩相手の張本人なんだし」
「うむ、そうだな。・・・昼休みか。では昼休みに透の教室まで出向くことにしよう」
「それがいいだろぃ。中途半端に動くと、また伊織の怒り買いそうだしな」
・・・ということは、朝練の時間は顔を合わせながらも何も言えないというのか・・・?
そこはかとなく、気まずい雰囲気になること必須だろう。
予想した通り。
今日の朝練は、妙な空気だった。
部員の大半は昨日の行く末が気になっているのか、そわそわしている。
「たるんどる!」と一喝すれば部員はそそくさと逃げていった。
チクチクと伊織の刺々しい視線が刺さる。
そちらを向けば、伊織の横で透がこちらを苦笑いしながら見ていた。
(待っていろ透。まずは必ずお前に謝ってみせる・・・!!)
決意した瞳を透に向けると、お呼びではない。というような伊織の態度が目に入った。
・・・なんとかして、まずは透と一対一で話し合う場を設けなければならない。
待ちに待った昼休み。
こんなに昼休みが待ち遠しかったのは初めてだ。
早々に弁当をたいらげ、透のクラスに急行する。
「しつれいする」
気合を入れてCクラスに乗り込めば、そこには透と同じクラスの幸村がにこやかに微笑んでいた。
「・・・透に会いに来たのかい?でも残念だったね弦一郎。透は今いないよ」
何?いないだと?
確かに、クラスを見回しても透らしき人物は見当たらない。
「精市、透はどこに行ったのだ?」
「さあ。ついさっき伊織が来て、透を連れていっちゃったからね」
そう言って自身の弁当を租借する幸村。
「どこに行ったかは俺にもわからないな。きっとお昼休みいっぱいは帰ってこないよ」
「・・・そうか」
「先ずは透に謝ろうってことかい?」
「そういうことだ」
俺はいつになったら透と話をすることができるのだろう。
憤りを感じると共に、言い知れぬ妙な不安感が募ってきた。
「自業自得だよ弦一郎」
「ぐ・・・・・・」
「いつものように電話で呼びつけたらいいじゃないか」
「・・・それはできん!俺は今、透にそのような態度をとる資格はないのだ・・・」
「・・・へえ、ちゃんと反省してるね」
「当たり前だ。俺は・・・透に迷惑をかけてばかりだったことに気づいた・・・」
「如何に自分が透に甘えてたかってこと、わかった?」
「ああ・・・」
「伊織が怒ってる理由も?」
「無論だ。・・・伊織に対しても随分なことを言ってしまった・・・」
「・・・・・・じゃあ反省している弦一郎に、いいこと教えてあげるよ」
「いいこと?」
「・・・これ、何かわかる?」
幸村は制服のポケットから携帯電話を取り出した。
幾度と見たことのある形。
しかしそれは幸村の物ではなく、透のものだ。見知ったストラップがついている。
「・・・何故、お前が透の携帯を持っているのだ?」
「伊織に言われてね。弦一郎が透に電話をかけたら俺が出るようにって。・・・透を呼びつけるようだったら、俺から叱ってやってくれって。フフ・・・用意周到だよね」
「・・・・・・」
「だから、弦一郎が電話しても無駄だったってことだよ。まあ、弦一郎から伊織に電話しても、電源切られちゃうだろうけどね」
「・・・それがいいこと。か?」
「ううん。それだけじゃないさ」
そう言って、幸村は自身の携帯電話を取り出した。
「俺から伊織に電話かけてあげるよ」
「っそれは本当か?」
「ちゃんと反省してるようだからね。・・・このお礼は高くつくよ弦一郎」
「ああ・・・すまん」
幸村が慣れた手つきで電話をかける。
透の居場所を教えて貰うことができるだろうか。
「ああ、うん俺だけど。・・・弦一郎?ここにいるよ。うん。ちゃんと反省してるみたい。・・・・・・弦一郎、伊織が代わってくれって」
「俺に?」
幸村から携帯を受け取り、耳に当てる。
すると予想通りの怒ったような伊織の声が聞こえた。
『・・・本当に反省してるんでしょうね?』
「ああ・・・無論だ」
『言っておくけど、電話が通じたからって場所を教えるとは限らないんだからね?』
「それもわかっている。・・・伊織、よかったら居場所を教えて貰えないだろうか・・・」
『・・・・・・・・・』
「俺は、きちんと・・・お前らに謝りたいのだ・・・」
『・・・・・・・・・』
「後生だ・・・」
『・・・・・・マネージャーの部室にいるかもしれないけど。・・・嘘かもしれないよ?』
「それでもいい。これからそちらへ行く」
『言っておくけど!私はまだ許したわけじゃないからね!』
プツッ ツーツーツー・・・
そう言って伊織との電話は切れた。
「・・・教えて貰えた?」
「ああ。嘘かもしれんがな。しかし行くしかあるまい」
「フフ・・・。まあ頑張ることだね弦一郎」
「ああ。精市、恩に着る」
俺はそう行ってCクラスを後にした。
マネージャーの部室まで走っていきたいところだが、なまじ風紀委員長であるため、無闇に廊下は走れない。
俺が風紀委員であるということも考えているのだろうか。
なるべく早足で、屋外へと向かう。走りたいのに走れない、このもどかしさがどうしようもなかった。
【続】
いろいろ微調整(^ω^)
藤がちゃんと弦一郎のマネに対する暴言への指摘があったおかげで、何か素晴らしいものになりそうだよ!!
ムッフフ~^^ ありがとう!!!
「お前のそれは押し付けではないのか!?」
「!!」
何あいつ!!透を!マネージャーを!何だと思ってるのさ!!!
立海テニス部の夫婦喧嘩 2
バン!
「何なの!あいつ何なの!!人の気持ちを無下にして!!」
ロッカーを乱暴に開けて、ジャージを脱ぐ。
隣では透が無言で着替えを始めた。
いらいらしてしょうがない。
さっきは黙ってたけど、もう我慢できない。
「透はもっと怒っていいと思うよ!!」
「でも・・・私も大人げなかったっていうのもあるし・・・」
「何言ってんの!絶対あれはあの仏頂面の方が悪い!透は何も悪くない!!」
本当にそう思う。
弦一郎のことを思っての行動なのに、弦一郎は本当に透を何だと思ってるのか。
それにマネージャーに対してもだ。
『甘えと、頼るって違うと思う。マネージャーっていうのは選手の負担を少しでも軽くするためにいるようなものでしょ?』
『その本人が、無用と言っているんだ。それならば無理に手伝う必要などない』
こんなことを言われたら、マネージャーとしての存在意義がなくなってしまう。
いくら機嫌が悪かったといっても、言っていいことと悪いことがあるってもんだ。
あれだけ言われて透は腹が立たないのか。
私が代わりに殴ってくればよかった。ああもう!!
すべてのことに無性に腹が立った。
「うーん・・・でも、ちょっとショックだったかなあ・・・」
「透が落ち込むことないよ!!あれは弦一郎が悪いの!!気遣い無用!!本当、親の心子知らずってこのことだよまったく!!」
「親じゃねえよ・・・」
透の元気ないながらも的確なツッコミは無視する方向で話は進む。
「でも、まあそんな感じなのかなあ・・・」
「そうだよ・・・!何で透の思いやりがわかんないかな!!まったく本当腹立つ!私が透だったら逆にビンタしてたよ!」
「弦一郎にビンタかあ・・・ちょっとしてみたい気もするよね」
「透は弦一郎に甘すぎるよ!!2、3発・・・いや10発は殴っていい」
「・・・それは殴りすぎじゃない?」
「足りないくらいです!!」
透は昔からそうだ。
透は弦一郎に甘い。甘いっていうか優しすぎるのだ。
なまじ弦一郎自身が厳しい人間なものだから、見過ごされがちだが、あいつはどちらかといえば俺様気質の勘違い野郎だと思う。
自分が1番正しいと思っている節がある気がする。まあ、基本あいつは正しいんだけど・・・。
頑固だし、堅いし、一度自分で決めたことは曲げない。
侍と言おうか。正しく、「武士」なのだ。ついていけないくらいに。
とにかくいろんな意味で面倒くさいヤツなのだ。
いったいどう育ったらこんなマッチョな思考に育つのか。
そんな面倒くさい人間と一緒に過ごしてきた透が、何だか凄いと思うと同時に不憫に思えてきた。
・・・可哀想な透・・・。
「透はさ・・・弦一郎に不満とかないわけ?」
「不満ね・・・」
「私はさ、結構不満ある。まあいいヤツだけどさ・・・実際理不尽だし。透にあんなこと言うし」
「まあ・・・理不尽なことは理不尽・・・だね」
「でしょ!?それに、マネージャーをなんだと思ってるの!?マネージャーをボランティアとでも思ってない!?」
自分で言ってたらまた腹が立ってきた。
本当にあいつは・・・ったくもう!!!
声をかけていたのが私だったら、弦一郎は同じように突っぱねただろうか。
いや、弦一郎は透だからああいう態度をとったに違いない。
弦一郎は、少なからず透に甘えがあると思う。
こんなに良い子で可愛い私の透になんてこと言うんだ!!ああもう本当に透は可愛いな!!
健気な透が愛しすぎる。
私の質問に上を向いて思案していた透がポツリと言う。
「さっきの質問だけど・・・。不満っていうか・・・何かもう、しょうがないかな・・・みたいな」
「は?」
「だって弦一郎だし。しょうがないじゃない・・・」
・・・・・・・・・・
その一言に、透の弦一郎への思いがすべて集約されている気がした。
『だって弦一郎だし』
その言葉が頭の中でこだまする。
(・・・・・・深い・・・深すぎるよ透・・・)
何、このすべてを許します。みたいな聖母のようなオーラは。
甘すぎやしませんか。もっとガツンと!たまにはガツンと言ってやれ!!
弦一郎だから。っていう理由で済ませていい問題じゃないぞ!!
透は長年の付き合いで悟っているのだ。弦一郎がそういう人間なのだと。
親かお前は!!!(たしかに実年齢は遥かに年上だが)
こういう個性の子なんです。とか言い出しそうな雰囲気だ。
透の声には一種の諦めが入っていた。
まるで反抗期の子供を持つ親のような口ぶりだった。
「それに弦一郎も、あれで結構ナイーブだから、今頃それなりにいろいろ考えてくれてると思うよ」
「ナイーブ!?」
「その言い方弦一郎に失礼ですよ伊織さん・・・」
失礼で結構!!!
あんなヤツ失礼で十分だ!
っていうかナイーブって顔か!!
何だか納得がいかない。
悪いのは弦一郎で、酷いことされてるのは透なのに。
私だって、少なからず傷ついた。
私達は、何のために働いているのか。私達の選手への思いは伝わっていないのだろうか。
透の海のような心に、ただ溜め息が出る。
人間が出来てるなあ透は・・・。人がいいていうか・・・。
そのうちストレスで胃に穴が開いて変死しちゃうんだから!!!
私、弦一郎だけには絶対、絶対、絶対透を嫁にはやらせないから。
こんないい子を弦一郎みたいな不届き者にやってたまるか!!!
「でも・・・今日は何か久しぶりに怒って、ちょっとスッキリしたかも」
「・・・あれでスッキリしたんだ」
「うん」
「久しぶりって・・・どれくらい?」
「・・・・・・わかんない・・・5年以上?」
・・・5年以上溜まったストレスとかが、あの何分かに凝縮されてたんですか透さん・・・!
溜めすぎ!!!
「透!そんなんじゃ本当に体壊すよ!!適度に発散して!!」
「これはもう慣れだよ」
「慣れとかいらないから!!」
私は今度透と一緒にカラオケにでも行こう。とそう心に思った。
「透は・・・弦一郎のこと本当によくわかってるんだね・・・感服いたしましたよ・・・」
「まあ、伊達に10年も一緒にいないよ確かに許せない気持ちもあるけど、弦一郎が反省してるんだったら、今までどおり接しようと思うよ」
「でも私は許してない。弦一郎が謝るまで許さないからね!」
むしろ弦一郎を透に近寄らせたくない。
透が弦一郎を許しても、私は許してない。
透への態度を改めさせなければ。
それに、マネージャーの認識だ。弦一郎は何か勘違いしてるのではないか。
あの朴念仁には多少きつめのお灸が必要だと思う。
「もう・・・伊織が怒ることないのに」
「これが怒らずにいられるか!」
「まあ、たしかに弦一郎はちょっと言いすぎかもね」
「透は優しすぎるよ!」
「ありがとう・・・伊織。私の代わりに怒ってくれて」
「どういたしまして!」
「何でかな・・・悔しいはずなのに、怒れないな・・・。なんか悲しくなってきた・・・」
「透っ!!」
2人でギューッと抱き合った。
これは絶対弦一郎にはガツンと一発強烈な何かをかまさないといけない。
着替え終わって扉を開ければ、弦一郎を囲んでレギュラーメンバーが何か話をしているのが見えた。
きっとさっきのことについての話し合いだろう。弦一郎が理不尽なのは今に始まったことじゃない。
言って聞かせるいい機会だ。何を言ってるかは分かんないけど、もっと言ってやって皆!!!
(たっぷり反省しろ弦一郎め!!!)
ただでは謝らせないんだから・・・。
【続】
この一件があった後、弦一郎は透と伊織に頭があがらなくなります。
伊織にもね(笑)
透には2倍くらい甘くなりますwww
俺、ジャッカル桑原は今、珍しいものを見ている。
それは・・・その・・・
あんまり本当は見たくないものなんだが・・・。
なにせ本当に珍しいもんだから、周りも止めるタイミングを見失ってて・・・
実は、真田と・・・あの笹本が喧嘩してるんだ。
・・・珍しすぎるだろ?
立海テニス部の夫婦喧嘩 1
その日は、たまたま真田の虫の居所が悪かったみたいだった。
だから俺達は極力近づかないようにしていたんだ。だって、理不尽に殴られたらたまんねえじゃねえか。
真田の機嫌が悪いときは、長年の付き合いからか、笹本はそれを察してそっとしとくことが多い。
秋原も俺達と同じように近寄らないし、比較的殴られることのない立場にある柳でさえ気を遣うくらいだ。
そう、その笹本の真田を気遣った一言が原因で、喧嘩してるんだ。
「今日、先生から預かった書類、私も手伝うよ」
部活終了の号が終わった後、笹本が真田にそう話しかけた。
風紀委員長である真田が預かった書類の数々のことを言っているんだろう。
いろいろな都合があったらしく、今日になってまとめて真田に渡された書類は結構な量で、一人で処理するには大変だ。
笹本は練習で疲れているであろう真田を気遣ったのだ。ということは、容易に想像が出来る。
俺達も、「ああ、頼もう」という真田の返事が来るであろうと、そう思っていたから別段気にしてなかったんだ。
でも、今日は違った。
「お前に手伝って貰う事はなにもない」
きっぱりと、そう素っ気無い態度で笹本を突っぱねた。
笹本は少し面食らったような顔をしている。予想と違う言葉に俺達も思わずそちらの方を振り返った。
1番大事にしているであろう、幼馴染にまでそのような態度をとるとは。
今日の真田は思ったよりも相当機嫌が悪かったようだ。眉間の皺が深い。
(今日は殴られなくて、本当に奇跡だぜ・・・)
と、そう思ったが、今は目の前の状況だ。
何だか雰囲気が悪い。
「・・・だって、書類たくさんあるようだし・・・出来る限り手伝いたいって思ったんだけど」
「それは必要ない。お前は風紀委員ではないし、自分に課せられたマネージャーの仕事をこなしていればいい」
「でも一人だと大変だし、負担が多すぎるよ」
「自分でやると決めた事。俺は決めた事を変える気は無い。」
「何でそうやって意地を張るの?」
「意地など張っていない。これ以上の話は無駄だ、透」
きっつい一言だな、おい・・・。
笹本も少しムッとしたような様子だ。しかしここは長年の付き合い。
軽く深呼吸して、あくまで真田を気遣う様子で、皇帝を刺激しないように自分を落ち着けているようだ。
「お前にも仕事があるだろう。お前に無駄な苦労をさせるわけにもいかん」
「弦一郎のそういう気持ちもわかるし、ありがたいと思ってるよ。でも私だって弦一郎に負担かけたくないの」
そう笹本は心配そうな顔をする。
笹本の言っていることは理解できるし、マネージャーとして、幼馴染として気遣っていることが感じ取れた。
しかし、雰囲気は一向に重いままだ。
「弦一郎は昔から何でも1人で抱え込もうとするでしょ。その負担を軽くしたいの。」
「いらない世話だと言っているんだ」
「もっと頼ってくれていいのに」
「他人に甘えて自分だけが楽になろうとは思わん」
ああ言えば、こう言う。
と言った感じで、お互いに譲らない。
(・・・笹本もあれで頑固だからな・・・・・・)
「甘えと、頼るって違うと思う。マネージャーっていうのは選手の負担を少しでも軽くするためにいるようなものでしょ?」
「その本人が、無用と言っているんだ。それならば無理に手伝う必要などない」
「・・・私達がわざわざ無理して手伝ってると思ってるの!?」
(おいおいおい・・・・やばいんじゃねえかこれ?)
先程まで、まだそれなりに柔和だった笹本の雰囲気が変わった。
笹本に帯びているのはまさしく怒気だ。
秋原はその様子を黙ってじっと見つめていた。
「そんなことは言っていないだろう!いい加減にしろ、これは俺の仕事だ!」
笹本の態度に真田も引っ込みがつかなくなったのだろう。一層声が大きくなる。
ビリビリとこちらまで飛んでくる覇気。
その真田を目の前にして、怯むことなく睨みつけてる笹本も凄い。
レギュラーも平部員も、その光景を見つめたまま呆気にとられて、固まって動かない。
「練習で疲れてるし、少しは休んだ方がいいって言ってるの!!」
「しつこいぞ透!!」
「何でそういうこと言うの!?」
「お前こそ、そこまでムキになることもあるまい!」
「私は心配してるの!!」
「お前のそれは押し付けではないのか!?」
「!!」
(おい、それは言いすぎだろ真田・・・・・・)
一瞬笹本が悲しそうな目をしたのが見えた。本当に一瞬だけ。
「~~~っっ!!!この分からず屋!」
「っ!!それはお前だ!」
「頑固者!!!」
「それはお前とても同じだろう!!!」
完全に痴話喧嘩に入った。
笹本も先程とは打って変わって、冷静さを失っている。
「お、落ち着いて下さい、真田くん!透さん!」
「少し黙ってて」
ピシャリと柳生を切り捨てて、横目で柳生を睨む。
いつにない色を孕んだ眼に、さすがの柳生も冷や汗が垂れている。
何せここにいる俺達全員が笹本が怒ったところなんて見たことがないのだから、その雰囲気に呑まれてしまってもしょうがないが、はっきり言って・・・恐い。
さすが幼少時より真田と共に育っただけのことはある。
背後に毘沙門天でもいるかのような錯覚を覚えた。
「私達ってそんなに頼りない?手伝うのはいけないこと?」
「黙れ!!くどいぞ透!!」
「お、おい真田!」「弦一郎!」「ちょ!副部長!!」「っ!!」
真田が右手を瞬間、大きく振り上げた。
逆上して無意識のうちにビンタの体勢に入ってしまったんだろう。
俺、柳、赤也の言葉や、周りの反応で、ハッと我に帰ったのか、右手が宙に浮いたまま止まった。
そこで笹本を見れば。
・・・・・・大したもんだぜ・・・
笹本はビンタがくるであろうと分かっていたはずなのに、眼をしっかり開いたそのままに真田を見据えていた。
皆がゴクリと息を呑んだのがわかった。
「・・・殴るの?」
「・・・っ!」
「殴るのね?」
笹本が真田の目を見たまま言った。
口調は先程よりも随分と冷静だが、ヒヤリとした冷気さえ纏っている。
「殴るなら殴りなさい」
「なっ・・・」
「私はこのテニス部の調和を乱した不届き者だわ。いつものように殴ればいいじゃない」
「・・・・・・・・っ」
「さあ、真田副部長」
ゾクリと寒気がした。
笹本はゆっくりと目を瞑り、背筋を伸ばして殴られる準備をする。
皆、2人の一挙一動を見守っている。
笹本の方が1枚上手のような気がした。その度胸に完敗という感じだ。
真田の手が、止まったまま震える。
「2人ともそこまで」
静寂を打ち破るように、幸村がそう声をあげた。
真田の右手が静かに下りる。
皆も安堵したかのように、口々に溜め息を吐く。
「何をぼうっとしているんだ。解散の号は出ているはずだ。部員は速やかに各自成す事をしろ」
「「「「っは、はい!!」」」」
幸村の声で、先程まで足に根が生えたように立ち止まっていた部員達がいっせいに動き出す。
レギュラーメンバーと秋原は、例の2人と幸村を遠巻きに見ていた。
「・・・まったく。これでは部員に示しがつかないだろ真田」
「・・・すまん」
「謝るなら透に言うのが先じゃないかな」
「む・・・・・・」
「真田を本当に心配して、ああ言ったのに。それを無下にするようなことを言っただろ?」
「・・・・・・」
真田は幸村の声ですっかり冷静さを取り戻したのか、複雑な顔をして笹本を見ている。
「いいの精市。別に気にしてないから」
「透・・・その」「ごめん弦一郎。手助けは必要ないって言ったのに、しゃしゃり出るような真似して」
「・・・いや」
「・・・どうしても終わらなそうだったら声かけて。手伝うから」
「ああ・・・その透、」「精市も・・・ごめんなさい。騒がして、精市にまで迷惑かけちゃった」
「いいさ。部員の面倒見るのが部長の仕事だからね」
「・・・ありがとう。・・・あ、柳生もごめん・・・。せっかく止めようとしてくれたのに、あんなこと言って・・・」
「いえ・・・気にしていませんので」
「透、その・・・」「先に帰るね弦一郎。書類整理頑張って!」
「あ、ああ・・・」
「行こう伊織」
笹本はそのまま秋原の腕をとってマネの部室に歩き出した。
完全に真田が置物と化している。
結局真田は謝罪の言葉を一切口にしてない。
その場に残されたのはレギュラーメンバーのみ。
「・・・・・・・・すまん」
「謝るのは俺達にではないぞ、弦一郎」
「う、む・・・」
「っていうか結局謝ってないじゃないスか副部長!!」
「いいとこないのう」
「透は謝ってたけどよ。どっちかっていうと真田の方が悪ぃよな」
「・・・・・・」
「ええ。気遣う透さんにあの仕打ち。本当に殴るおつもりだったんですか?」
「いや、そんなことは・・・」
「でも右手出てたじゃないスか」
「俺達の声が聞こえていなかった場合、笹本を殴っていた確率62%だ」
「もし殴っとったら人間性疑うところじゃ」
「あれは女にくらわす一撃じゃねえしな」
「・・・・・・・・・」
「・・・ま、まあ真田も十分頭冷やしたみてえだし、これくらいで許してやったらどうだ・・・?」
「甘いぜジャッカル!」
「つい、赤也や俺を殴るつもりで無意識に体が反応しちまっただけだろ?な!真田(・・・言ってて悲しいぜ・・・)」
俺の言葉に、真田は眉間の皺をまた一層深くした。
「何がともあれ、真田。透にはちゃんと謝った方がいい」
「フ・・・先程の笹本は見事に有無を言わせない態度だったな。興味深い」
(なんのデータとってんだよ・・・)
柳がノートにメモ書きをしている。
・・・笹本も大変だよな・・・
「っていうか、透先輩も怒るんスね~。俺怒ったところ初めて見たッスよ」
「・・・そうですね。彼女はいつもおっとりとしていて、争いごとは嫌いな性分のようですからね」
「・・・俺も初めて見た」
「え!?そうなのか?」
真田がポツリと衝撃的事実を言った。
「うむ・・・。俺も実は少々驚いていてな・・・」
「透と真田って幼馴染なんだろぃ?喧嘩の1回や2回くらいあるんじゃねえの?」
「いや、それがまったくと言っていいほどなくてな・・・・・・」
「・・・お前さんと透は、出会って何年目じゃ?」
「・・・・10年だな」
10年・・・・・・。
気の遠くなるような歳月だ。
10年も一緒にいたのに、1回も怒ったところを見たことがないとは・・・。
それも凄い。真田はいつも怒ってばかりだから、諌める透は随分と大変だったはずだ。
すでに慣れているだろうとはいえ、ストレスが溜まるような日々だったことは想像がつく。
俺だったら3日で胃に穴が開いてるところだぜ・・・。
思わず笹本に尊敬の念を抱かずにいられない。
「真田、透が何言っても怒らないとでも思ってない?」
「っ!・・・そんなことはない!」
「でもきっと今までも、言葉に出さなかっただけで、透はいろいろ我慢してたところあると思うよ。思い当たる節はたくさんあるだろう?」
「・・・・・・・・・」
「朝の4時から練習つき合わせたり」
「・・・・・・・・・」
「1日中剣道の相手やらせたり」
「・・・・・・・・・」
「聞きたくもないだろうに、延々と将棋の講釈したこともあるんだって?」
「ゆ、幸村・・・それは、」
「透が異を唱えようとすれば、「異議は認めん」」
「っ・・・・・・」
「透が失敗すれば「たるんどる」」
「う・・・・・・」
「こんなに理不尽なのに、透からは弦一郎の文句なんて、俺聞いたこと無いよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
幸村の話に口々に皆が口を開く。
「・・・そんなことをやらせていたのか弦一郎」
「理不尽にも程があるだろぃ」
「うわぁ・・・透先輩大変だったんスね・・・っていうか、透先輩が凄え・・・」
「真田くん・・・長い付き合いだからといって透さんに甘えすぎです。いえ、透さんが優しすぎるのか」
「なんじゃ、まるで亭主関白じゃのう」
「真田・・・そういう人間は大切にした方がいいぜ・・・(俺とか・・・)」
「っていうか、大切にするべきだよね?弦一郎」
幸村の言葉で真田は完全に黙ってしまった。
沈黙が痛い。
「・・・それと、伊織にも謝るべきだ」
「伊織に?」
「わからないようなら、真田は透に謝る資格すらないよ」
「・・・・・・・・・」
軽く頭を捻る真田。
俺も正直、真田が秋原にも謝る理由が今ひとつピンとこない。
幸村が言葉を続ける。
「わからないのかい?透は、幼馴染だから言ったわけじゃないんだ。マネージャーとして、一選手である真田の負担を軽くしてあげようとして言ったんだよ」
「っ!」
「・・・気づいたみたいだね。皆も、勘違いしてるようなら言うよ。マネージャーはただの洗濯係じゃない。俺達のサポートをしてくれているんだっていうことを、皆理解してる?」
沈黙が重い。俺を含めて、皆一様に真剣な顔で黙る。
「彼女達がやっているのはボランティアじゃないんだ。透の言うとおり、マネージャーは俺達選手の負担を少しでも軽くするためにいるんだ。少しの時間でも練習に回せるように、休息に当てることが出来るように、頑張ってくれてる存在なんだよ。それを弦一郎は無下に断ったんだ。その意味がわかるかい?」
その言葉に、弦一郎は相当ショックを受けたようだ。
目を見開いたまま固まっている。
かく言う俺にも相当な衝撃だった。
確かにそうだ。あいつらは自分の意思でここに所属しているとはいえ、俺達のためにそこまでする義理立てはないのだ。
弦一郎がたっぷり間を置いて口を開く。
「・・・・・・謝らねば・・・」
「伊織にも、透にもね。特に透には10年分ね」
「う、む・・・・・」
そう言ってマネの部室に向かおうとする真田。
それを柳が制する。
「待て弦一郎。今謝りに行ったところでまた言い合いになる確率は非常に高い」
「むっ」
「・・・そうじゃのう、一旦は終了したことじゃ。今掘り返しても逆効果じゃろ」
「最後は怒ってないようでしたが、かなり頭にはきてたようですからね」
「まあ・・・最後のあの喋り方見たらそうッスよね・・・」
「無言だったけどよ。俺、伊織が結構恐い顔してたの見たぜ?」
「ここは、間を置いてから改めて謝罪しに行った方がいいだろう」
「そうか・・・」
どことなく皇帝には哀愁が漂っていた。
しかし、同情する気にはなれない。これは真田が全面的に悪い。
「俺の今の言葉、肝に銘じておけ。これは全員に言えることだよ」
無言で皆が頷く。
俺もマネージャーへの認識を改めた方が良さそうだ。
俺と同じように、何人かは自分に言い聞かせるように頷いている。
「まあ、真田も反省したようだし、着替えよう皆」
「う~ッス」
幸村の言葉に皆ぞろぞろと部室に向かって歩き出す。
部室に入る間際に、笹本と秋原の後姿が見えた。
もう角に曲がって消えていくところではあったが、笹本の様子も、秋原の様子もいつもと変わらないように見えた。
いや、あいつらが2人で歩いていて無言であることが、すでに異常なのかもしれない。
(・・・明日の朝が・・・気になるな)
喧嘩の後の、初顔合わせが気になる俺だった。
それより、真田がちゃんと2人に謝ることができるのかということの心配の方が大きかった。
(・・・俺もお人よしだな・・・・)
【続】
長っ